A. 「風」レベルの標準的な入試問題をやりましょう。<腕組み勉強法>と呼んでいますが、問題文を読み、解決に至る筋道を思い浮かべます。計算はしません。そして、すぐ解答を見ます。思った通りの解き方であれば、それで OK 。
たとえば、衝突の問題なら・・・運動量保存と反発係数の式の連立で解けるはずと見通しを立てた段階で、次の設問に進みます。 筋道が描けない場合は、普通に鉛筆で解きます。 それも図を描いたりして、解決策が立てられれば、それでおしまい。
Q2. 先ほどの件は解決できました。もう一つの質問です。上の図1で、初め P は半球面の縁から動き出します。その直後の加速度が問われています。どうしたらいいか、見当がつきません。半球面にも縁にも摩擦はありません。
A.「直後」がポイントですね。P は縁にいるので、半球面は鉛直な壁と同じです。もっと分かりやすく言えば、糸が摩擦のない滑車にかけられて、P と Q が鉛直に運動するケースに該当しているのです。加速度を a 、糸の張力を T とおいて、P と Q の運動方程式を連立で解く、いつもの問題ですね。『Q&A 風』で話した「1次元化 + 一体化」なら、
a =( m−M )g /( m+M )と 即答です。 ( 質量 P : m 、 Q : M )
一般に、「直後」の問題は何かが単純化されています。ある量が特殊な値になっていることもあります。たとえば、電気回路でスイッチを O N した直後、コイルの電流が0だったり、(帯電していない)コンデンサーの電圧が0だったりです。 「直後問題は計算が楽なはず」と思って取り組むと、「何か」が見つかりやすいと思います。
運動量保存則が成立するかどうか、懸念がある場合には、定理「力積=運動量の変化」に戻って調べる・・・大切な姿勢ですね。 この定理は運動方程式から導いたもので、無条件に成立しています。 戻るべき関係を知っていることが大事で、言い換えれば、力学の構成を認識していることです。 「エッセンス」(上)p93 (新版 p 95) に構成を記しています。
###Dialogue(対話): Q1 〜 Q23#####
―――――― 衝突 ・ 保存則 ・ 重心系 ――――――
Q1. 「森」の力学の問題 37 では滑らかな水平面上での衝突が扱われています。まず、C が静止している A に弾性衝突します。 衝突直後 A は速度を得ますが、A と軽いばねでつながれている B は静止したままです。 ばねが縮み始めると同時に弾性力が生じ、B も動き出します。 衝突直後から、A と B の重心 G は等速度 vG で動き、G に対して A と B が振動を続けます。
学校の先生によると、これは2物体の衝突モデルと見ることもできるとのことでした。 詳しく説明して頂けませんか。
A. 「 A と ばね と B 」全体で一つの物体 X とみなせば、C と X との2物体の衝突です。運動量保存則が C と X の間で成り立ちます。 X の質量は A と B の質量の和 M で、X の速度は vG です。 Cの速度と vG を用いて 反発係数の式を考えることもできます。
C A 間が弾性衝突なので、エネルギー保存則(★)は、
(衝突前の C の運動エネルギー)=(衝突後の C の運動エネルギー)
+(重心 G の運動エネルギー MvG2/2 )
+(振動のエネルギー)
振動のエネルギーには 弾性エネルギーも含めています。
A. 物体系の全質量を M 、重心 G の加速度を aG とし、物体系に働く外力を F とします( aG と F は ベクトル)。 物体系を構成する一つ一つの物体に働く外力の総和(ベクトル和)が F です。
すると、 M aG = F が成り立つことが証明されています。重心の運動方程式ですね。 重心 G は、運動方程式に従って 外力によって運動し、物体間で働く内力には影響されない のです。
F = 0 なら aG = 0 であり、重心 G は等速度(等速直線運動)で動くことになります。静止も含みます。 これが「エッセンス」でふれたケースです。
上で登場した、ばねで結ばれた A と B の運動がそうでした。 他の例としては、2つの物体が滑らかな水平面上で衝突するとき、正面衝突はもちろんのこと、斜め方向の2次元衝突で物体が別々の方向に飛び散っても、重心は衝突の前後を通して等速度で動いています。
もし、A を持って B をばねでぶら下げ、A を放すと・・・A と B それぞれは複雑な運動をしますが、 重心 G は重力加速度 g で 自由落下します。
上式で、 F = M g であり、 aG = g だからですね。
そして、重心系に移ると、全運動量0だけでなく、驚くべき事態になっているのです。 慣性力が A と B に対して上向きに働き、重力を完全に打ち消しています。 水平面上でのばねによる振動と同じことになっているのです。自然長の位置が振動中心になる単振動です。
まさに、 重心系 の 面目躍如 !
2つの物体を棒で結んで、適当に放り投げると・・・重心 G は放物運動 ですね。そして、重心系では、重力がないのと同じで、2つの物体は というか、棒は等速回転に入ります。 G が中心となる角速度 ω が一定の回転です( ω=0 も含む )。
Q1. 振動が起こりそうだが、単振動になるかどうか分からないときは合力 F を調べるのでしたね。 物体の位置座標 x を用いて、 F = −K x と表せたとします(K:正の定数)。
問題はその後の論理の進め方です。 ある本では、運動方程式 m a = F から加速度 a を求め、単振動の公式 a = −ω2 x と見比べて 単振動であることを確認し、角振動数 ω を決め、周期を T = 2π/ω で求めるように書いてあります。( π:パイ、円周率 ) 模試の解説でもそうなっていました。
ところが、「風」や「森」での論理はこうはなっていません。 説明していただけませんか。
A. まず、確認ですが、座標軸の原点 x = 0 は力のつり合い位置としての話ですね。 F = −K x なら、単振動と断定できます。 そして、周期は T = 2π√(m/K) としていいです。 加速度 a = −(定数)x に至った段階で 単振動と分かるというのは まだるっこい のです。 力 F の段階で分かることです。 力が運動を決める からです。 それこそが運動方程式の主張ですね。
大学で微分方程式を習うと、 a = −ω2 x の形を好むようになります。 a は x の2階の時間微分であり、 解は x = A sin ωt + B cos ωt あるいは x = A sin (ωt + θ0) になると言えるからです( A、B 、θ0 は任意の定数)。
高校の教科書では、単振動なら、F =−K x になることは示されていますが、その逆が示されていません。 微分方程式の知識が必要だからです。 ただ、それは一度確認すれば 済むことです。 毎回たどる必要はありませんし、微分方程式を習っていない段階では 無意味に等しい回り道でしょう。
Q2. これからは「 F = −K x なら、単振動。 周期は T = 2π√(m/K) 」という方針で対処します。 a = −ω2 x は不要と思っていいのでしょうか。
A. それはそれで役に立ちます。 入試の出題者は、当然ながら大学の先生であり、微分方程式が頭にあるため、加速度 a を求めるように誘導してくることが珍しくないからです。 a = −(定数)x という形を見たら 単振動と判断できるように。 定数は 正の値で、ω2 を表します。 その場合は、ω から周期Tへというルートで対応します。
ω が決まると、時間変化を式にしたい場合には便利です。 たとえば、振動中心から動き出せば、x=± A sin ωt であり、振動の端からスタートすれば、x= ± A cos ωt のように(時間変化のグラフを脳裏で描いて)。
そして、速度 v は v = dx/dt で、加速度 a は a = dv/dt と、微分で対処できます。 a = −ω2 x なら、ダイレクトにxから a に移れますし、チェックにも使えます。
A. F=−K x の K は周期 T を決めるほかにもう一つ大切な役割があります。
単振動の位置エネルギーですね。 合力Fに対する位置エネルギーなので、合力の位置エネルギーとも呼ばれます。 単振動のエネルギー保存則m v2/2 + K x2/2 = 一定 が成立します。 x は座標ですが、2乗して符号は関係なくなるので、振動中心からの距離と覚えた方が扱いやすいでしょう。 この保存則の有用性は 強調しても し足りません。
A. 合力 F を調べるときには、物体が正の位置 x にいるとして考えるのがコツです。 x が負でも成り立つことは 普段の勉強ではしてください。入試では飛ばします。 二通りの可能性があるときは、分かりやすい方を選べ です。
式というのはありがたいもので、xの正負に関わらず成り立つのがふつうです。 数学のように場合分けが必要になるケースはまれです。
座標原点が振動中心になっていないと、 F = −K x + C の形になりますが、
F = −K(x − C/K) と変形することにより、 x = C/K を中心とする単振動と判読します。 x − C/K = X と置き直し、 F = −KX とすると、ていねいですが。
加速度 a = −ω2 x + C も同じようにして、 x = C/ω2 を中心とする単振動です。 (C:定数)
A. 理解についてはその通りです。 どこまで詳細に押さえるかで言えば、実用目的に適した近似でいいとも言えます。
今、皆さんが習っている力学はニュートン力学と呼ばれるもので、物体の速さ v が光速 c に近づくと、相対性理論に基づいた力学が必要になります。 月や火星・木星などに向かう探査機の速さ v は弾丸の速さよりずっと速いのですが、光速と比べれば微々たるものなので( v ≪ c )、探査機の軌道計算はニュートン力学によって決めています。 相対性理論による計算ははるかに膨大なものとなって大変なのに、出て来る結果の違いは無視できるからです。
一方、加速器による素粒子の実験では、光速に近いので、相対性理論が欠かせません。 目的に応じた理論を用い、近似も必要に応じてということです。
Q3. ニュートン力学はアインシュタインの相対性理論によって否定されたと聞いていました。
A. それはちょっと違います。 理論の発展は、螺旋階段を上がるようなもので、新たな理論は古いものを内に含みながら、より高いレベルになっています。 そして状況によっては、古い理論で十分ということが往々にして起こります。
A. きちんとした理解は高校の範囲をはるかに超えてしまうので、今は以下のように考えればよいでしょう。
その前に、知識の確認ですが、原子は原子核とその周りを回るいくつかの電子からできています。
電子は軽いので、原子の質量は事実上、原子核の質量 です。そして、原子核は大変小さく、原子の大きさの10000分の1に達しないぐらいです。
A. 位相2π が波長 λ に対応するので、π/2 は λ/4 に対応します。A から出た山が λ/4 進んで点 P に達した時、B が山を出します。2つの山が出会うのは P B の中点です。そこが腹ですね(図1)。あとは λ/2 の間隔で追えばいいでしょう。 なお、B は T/4 遅れて振動しています(T:周期)。
中点 O を利用して考えるのがスマートです。 λ/4 のハンディキャップがあるので、中点より B に近い側の点 C で山と山が出会うはずです。距離 O C はいくらですか ?・・・ λ/4 ? ・・・ O C = λ/8 ですね(図2)。 A から遠ざかり、B に近づくので経路差は O C の2倍です(要注意!)。
B の位相の遅れが φ なら、(φ/2π)λ のハンディなので、中点 O の右、φλ/4π の位置が腹ですね。 具体例で考えて一般化するのは、物事を考える上での鉄則 です。 次に、式ができたら、答えが分かっている例でのチェックが大切。この場合は、φ = 0(同位相)や φ = π(逆位相)です。
次に、逆行させると、「虚像」が「虚物体」になり、「物体」が「実像」になります。 それは式 B の左辺の項を入れ替えた 1/(-b) + 1/a = 1/(-f) に他なりません。
Q3. 「逆行」は意外なことを教えてくれますね。 少し感動しました。 a が負になる「虚物体」も分かりました。 反射鏡でも起こるのでしょうか。
A. 反射鏡の場合もレンズの公式が成り立つことは知っていますね。 注意点は、凹面鏡が 凸レンズに対応することです。 共に光を集め、光軸に平行な光線は一点(焦点)に集まります。 公式が成り立つことは相似三角形を利用して確認でき、教科書に書いてあります。 焦点距離 f は 凹面鏡が正で、像までの距離 b は 実像が正です。
凸レンズを通した後、実像を結ぶ前に反射鏡を置くと(初めの図の点線位置)、「虚物体」になりますが、やはり a を負にすることで対処できます。
教科書の図で 虚像ができる場合に、光を逆行させてみてください。 虚像は「虚物体」に、物体は「実像」に変わり、あとはレンズの公式の 左辺の第1項と第2項を入れ替えて 見比べてみると分かります。
Q2. 像 X の正立と Y の倒立は確認できました。 ライトの形が丸なので、端を覆って非対称にしたらはっきりしました。 倒立とは、180° 回転した像ですね。
そして、X はレンズの向こう側に、Y は手前側にできているということですね。なんとなくそんな気もしますが・・・
A. 虫眼鏡の取っ手を軸にしてほんの少し回してみると、遠い X と近くの Y の位置関係が分かります。 ゆっくり回したり戻したりしてみてください。線分 XY がレンズ面と交わる点を中心にして向きを変えます。
また、スリガラスかトレーシングペーパーがあれば、実像 Y を映し出せます。 クッキリ映る位置があるはずです。入射光を遮らないようにしてください。
A. 私も初めて話を聞いた時にはそう思いました。実際にやってみると、意外によく見えます。 凹面鏡になっている裏面で光が集められることで明るくなっています。
また、像 X に比べて Y は小さくなっていますが、それは明るくなることにつながります。 教科書の凹面鏡による反射の図でも小さくなることが確認できます。
A. 可能です。入試での出題例もあります。 ケプラーの第2法則である「面積速度一定」も成り立ちます。 これと力学的エネルギー保存則 mv2 / 2 + (−q)×kQ / r = 一定 を連立させて、楕円の長軸の両端での速さを求めることもできます。 第2項の静電気力による位置エネルギーは、公式 U = qV と点電荷の電位の公式 V = kQ / r を組み合わせたものです。
楕円軌道が可能なのは、万有引力の法則とクーロンの法則は同形なので、類推により理解できます。
静電気力の位置エネルギー −kQq / r は 万有引力の位置エネルギー −GMm / r とそっくりなのも類推で分かりますね(いずれも無限遠点基準)。
A. その通りです。 一般に、座標 x を横軸にした位置エネルギー U グラフの接線の傾きは力 F につながります。
正確には、 F = −dU /dx です。 上の例は x を r に置き換えたケースで、
F = −dU /dr = −GMm /r2 まさに 万有引力です。 F < 0 は引力を表し、 r = R (地表)での絶対値は mg に等しいですね。
R ≒ 6400 km もあるので、日常現象で出会う h ≦ 数100 m なら、緑と青は一致していると言え、h = 10000 m = 10 km でも大差はありません。
ついでながら、曲線の接線を考えることで、ある点の近くだけなら、複雑な関数も1次式で近似できる ということにも注意してください。
重力の位置エネルギー mgh は、基準点を原点とした鉛直上向きの x 軸を用いて U = mgx と表され、ばねの弾性エネルギーは、自然長位置を原点として、U = k x2 /2 と表されます。 いずれも x で微分して、マイナスを付けてみると・・・ナルホドということになるでしょう。
電場と電位の関係 E = −dV / dx は F = −dU /dx に関連しています( ∵ F = q E 、 U = q V )。
Q. 点電荷の 電場 E = kQ/r2 や 電位 V = kQ/r では、r = 0 のとき 無限大になってしまいます。無限大の物理量はありえないように思いますが・・・
A. ちょうど、上に万有引力の位置エネルギー U の図がありますから、まずそれを見て下さい。 U = −GMm/r ですが、この式が成り立つのは地球の表面までです。万有引力 F = GMm/r2 も同様です。
「点電荷」は数学的な点ではなく、大きさを無視してよい帯電体ということで、
E = kQ/r2 や V = kQ/r は帯電体の表面までの話です。
地球に戻りますが、トンネルを掘れば、内部での F や U を調べられます。 もちろん、無限大になることはなく、 r → 0 で F → 0 になり、U → 一定 になります。
「森」の力学の問題 43 が参考になるでしょう。
A. 導体の性質とガウスの法則に基づいて説明できます。
図 a のように、2枚の極板の向かい合った面を M と N とします。 面 M に正の電荷+が4個あるとし、1個から電気力線が1本出るとすると、4本が面 N に向かいます。 M から左へ電気力線が向かうことはありません。そこは導体で電気力線がない領域です。
こうして4本は右の極板に入りますが、面 N 上ですべて終わらないといけません。 N より右も導体で内部に電気力線はないのです。 ここまでを示すのが 図 a です。
すると、面 N には負の電荷があるはずです。 しかも4本を終わらせる(吸い取る)電荷ですから、−が4個存在することになります(図 b )。
A. そう思って大丈夫です。 3枚以上の極板なら、両端の極板の 外側の電荷が0です。 極板 A、B、C、D なら、A と D の外側が0です。 B と C は両面に電荷があると思って対処します(極板の厚みが無視できる場合も)。
出題者が、両端の外側が0になるようにセットします。 全極板の電気量の和が0であればよいので、回路なら、スイッチをつなぐ前は極板が帯電していなかったとか、アースするとかします。
アース(接地)は、それにつながる極板に自由電子が過剰にあれば、電子を地面に逃がしますし、不足していれば地面から送り込みます。
Q. コンデンサーの極板間に金属板や誘電体板を挿入するとき、「ゆっくりと」行えば、電気の移動による電流 I は実質0であり、抵抗 R があってもジュール熱発生は無視できるとあります(森(下)p70)。確かに R I2 は小さくなりますが、これは1秒当たりであり、「ゆっくり」挿入すれば、時間がかかってしまうので、全体のジュール熱が無視できるかは疑問ですが・・・
A. 注意深いですね。いい質問です。こんなとき、大まかな議論が役立ちます。
時間 T かかって挿入し、この間に電気量 Q が移動するとしましょう。 すると電流は大まかに I = Q / T です。平均的な電流とみてもいいでしょう。 そこでジュール熱は、
R I2 × T = R (Q/T)2 × T = R Q2 / T となります。 R と Q は定数なので、この結果は、T を大きくすれば、つまり「ゆっくり」と行えば、0に近づけられるということです。
挿入で話してきましたが、取り出しも同じことです。